◆第一話 思わず声をかけていた。
その子は噴水の傍のベンチに腰かけて、ぼんやりと人波を眺め――

その瞳は、例えようもないくらい蒼く透き通り、
なんだか、どこか遠い景色を見ているみたいだった。

羽鳥桂が、ブルーという少女と出会ったのは、
そんな珍しくもない日常の中だった。

桂と茉莉花は三年前から付き合い始め、今では同棲もしていた。
若手彫刻家である茉莉花と、美大生で写真を撮るのが趣味である桂。
互いに、適度な距離感を保ちつつ――平穏で幸せな日々を送っていた。

桂が心を震わせた一枚の写真。
一人の少女が、大きな木を見上げているだけの、在り来たりな写真。


ガラス製の写真立てを床に落として割ってしまったのは、ほんの些細な事故だった。
慌てて写真を拾い上げる桂は、その写真の裏にかかれていたメッセージを見てしまう。

三年前に起きた『バス炎上事故』
そのバスに偶然乗り合わせ、長らく生死の狭間をさまよった桂。

空白の時間。
あの時抱いていた想い。
そして、失われてしまったもの。

桂は走り出した。もう一度あの少女に会うために。
あの少女ならば全てを知っている――、根拠のない確信が心を突き動かした。

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